サロンパスは祖母のかほり

足の裏にもサロンパス

祖母の家には必ずサロンパスがあり
祖母の家の匂いはサロンパスのそれ
といっても過言ではないほど
常に漂うサロンパスのかほり

お線香の匂いと混ざって
日本標準「おばあちゃんちの匂い」
を作り出していました

ちょっと肩凝ったなあ…
   サロンパス貼っとき!
なんかお腹痛いわ…
   サロンパス貼ったら治るやろ!

いや、治らんやろ…
おばあちゃんたらサロンパス教👵

昔はくさいなぁと思ってました
今もくさい くさいことには変わりない
しかし使わずにはいられない
ついついやっちゃうヒラメ貼りね
うちの祖母は佐賀県出身です
嬉野市の方になるのかなぁ…
正確に聞いたことがありませんが
祖父と有明海で潮干狩りしたとか
お茶は嬉野茶しか飲まないとか
山を越えると長崎市だとか
そういう話から辿ると嬉野近辺かと

1945年の8月9日に長崎に落とされた
原子爆弾
山の向こうに突如現れた
キノコ雲を祖母は見ていました

空へ空へどんどん大きくなる雲に
得体の知れない恐怖を感じたそうです

キノコ雲をみてから暫くして
国道沿いにあった祖母の家に
次々と助けを求めに来る
被ばく者の姿

垂れ下がる皮膚や目 飛び出た内臓
水をくださいと か細い声が
そこかしこから聞こえ
行き倒れる人も少なくない

祖母と妹で裏山の向こうの畑にいき
…畑といっても他所様の畑だが …
収穫したさつまいもの蔓に残った
捨てられた小さい端芋を
バレないように急いでとってきて

大きな鍋でお湯を沸かし
湯冷ましを作り 芋を茹で

絶えることのない避難者の人々に
少しでもと渡してまわった
小さな子供を抱えた女性が
湯冷ましを飲んで少しして
動かなくなった

それから暫くして迎えた終戦
ほぼ毎日のように
米兵がジープに乗ってやってくる
国道沿いなのでトイレを借りに
みたこともないような大きな人間が
ボロボロの建屋に上がり込んできて
聞いたことのない床の軋みの音
このまま抜けてしまうんじゃないかと
心配になると同時に漂う獣臭
こんな人間相手に小さな日本人が
勝てるわけがないわ
最初から負戦だったのだなと
冷静に思い

米兵が使い終わった便所は
信じられないほど汚かったけれど
お礼にくれたチョコレートは
信じられないほど甘くて甘くて

戦争が終わって良かったと思った


夏休みに祖母の家に泊まり
一緒の布団で寝ると必ず
戦争体験の話をしてくれました
特に原子爆弾の話は何回も聞いた
同じくらいチョコレートの話も
よっぽど衝撃やったんやね

それと満州にいた時のこと
同居していた使用人の話とか
冬は極寒で湖でスケートした話とか
住んでいた日本人コロニーの外は
死体だらけだったとか

何もかも信じられない事実
布団の中に篭ったサロンパスの匂いが
私を90年代に引き戻してくれました


祖父は体が弱く
私の母が10歳の時に亡くなりました
それから女手一つで子供3人
死に物狂いで働いて働いて

今も元気です
でも認知症持ちでもあるから
今のうちに
もう一度 話を聞いておこうと
思っています

今日のミドルネームは
「カス笑いのじりっとばらかき」
でお願いします

高橋弥生 official web site

宇宙間じゃないよ 右中間だよ 静岡のシンガーソングライターだよ

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